ティキウィギンズ氏の記事を編集
Zillow のおかげで消費者が簡単にしかも詳細にわたる売り家や貸し家の検索や情報を得ることができる
ようになった。今や米国で住宅を探すのにプロも素人もZillow を使っていない人は少なくなった。
一方で従来からのエージェントを介する仲介ビジネスにメスを入れ、新たなアプローチを模索している
企業がある。レッドフィン社はその典型である。今回取り上げる企業はオープンドア社である。同社で
は基本的に物件を自社で売買する。これにより取引にスピード、便利さ、顧客の満足度全てを改善しよ
うとしている。
同社オンラインサービスには、7日間・24 時間可能な内覧(オープンハウス)や価格保証がついてくる。
また売り手による融資や買い手がエージェントを介さず直接取引した場合の価格ディスカウントも提供
される。今のところ買い手エージェントとも取引をしているが、将来自社で両手取引だけすることを目
指している。
そうなれば他社のエージェントを完全に排除する動きとなる。
売り手は同社が提供する物件の価格設定プログラムを使って、直接同社に売却することになる。これに
より既存のエージェントを使って専属契約を結んでいついくらで売れるかもわからない不安から顧客は
解放される。最短3日で取引は完了する。
その分売り手はオープンドア社に6-12%という高いコミッション(同社ではコミッションと呼んでいな
い)を支払わなければならない。またそれに加えて平均1.5%の修理費用を負担しなければならない。価
格もオープンドア社では市場価格の100%で買い取っていると説明するが、一部のエージェントは買取価
格がそれより低い価格だと訴えている。
同社は2014 年の創設からこれまでに3300 件の物件を買い取ったという。現在アリゾナ州フェニックス
市やテキサス州ダラス市を中心に営業しており、現在400 件の売り出し物件を扱っている。ネバダ州ラ
スベガス市にも参入を始めた。同社では1 億ドルの投資資金を使って、買取を基本とするビジネスを全
米各地に拡大しようとしている。
現在他社売り手エージェントとコミッションを分け合うビジネスを行なっているが、両手取引に専念す
ることによりさらに大きな利益を狙っている。
買い手にとって同社のサービスを利用すれば、インスペクション、2 年間の修理保証、返金保証、スマホ
を使った7日間・24 時間サービス体制といった利点がある。これだけの利点があれば、エージェントを
使わずに自分で購入するインセンティブにはなりそうだ。
また同社はトレードイン(既存物件を引き取ってもらい、新たな物件を購入すること)オプションがあ
り、エージェントを介さず売り買いを同時にしかも短期間で完了することが可能である。
オープンドアではMLS(エージェントオンライン情報サービス)に物件情報を出さないで、自社ホーム
ページでエージェントを使わない買い手と直接取引を行う。それでも物件が売れなければ、初めてMLS
で他のエージェントとコミッションをシェアするプランに出る。
同社が今後全米各地に広がりを見せることになれば、不動産仲介ビジネスを大きく変えることになるか
もしれない。既存仲介企業やそのエージェントにとって、脅威となる可能性がある。
オープンドアでは直接買い手が同社から購入した場合、通常販売価格より1%ディスカウントすることに
している。
また買い手がローンする場合、通常の銀行やモーゲージ企業などで煩雑な手続きをしないで、同社が直
接融資するサービスも提供している。これにより融資のプロセスを簡略化し、スピードアップを図るこ
とができる。また同社の決済次第では銀行では通常融資が下りないような買い手に対しても融資を行う
ケースがある。同社では融資したモーゲージを束ねてさらに投資家に二次市場で売却することもできる。
すでに金融市場では同社のモーゲージポートフォリオに投資しようという投資家がかなり名乗りを上げ
ている。
ここで同社が取引する過程を見てみよう。例えば買い手が金曜日午後3時に同社から売りに出たばかり
の物件情報を受け取る。買い手はその夜9時にスマホアプリを使って自分で家に入って内覧をして、翌
朝再び外観とさらなる確認のため再度訪れる。購入を決めたらオファーと融資に必要な情報を同社にオ
ンラインで提出する。同社システムがアルゴリズムを使ってデータ処理に入る。まもなくローンの承認
がおりる。オープンドア社が提出するインスペクションと保証プログラムを信頼する代わりに買い手は
自らのインスペクションを放棄する。
日曜日の正午に取引が完了し、買い手が1時に入居する。このように45 時間という短期間に全ての取引
が終わる。しかも週末でも可能である。
今のところ同社のビジネスモデルは完璧だとは言えず課題点は多い。果たして真の市場価格で提供され
ているのか。自らのインスペクションを放棄して大丈夫なのか。自らを守ってくれるエージェントの存
在がなくてトラブルがないのか。こういった点が指摘されている。
しかし一部の消費者にとってこういったリスクがあっても、スピーディーで簡単に取引できる同社サー
ビスを利用したいと考えるケースがあることは疑いない。
こういった問題に対して同社副社長は以下のように説明している。
● まず当社が他の仲介企業やエージェントとコラボしないという噂は間違っている。我々も不動産エ
ージェントであり顧客の満足度を高めるため他社と協力し合うビジネスを支持している。
● 2016 年だけで仲介他社に支払ったコミッション額は1000 万ドルを超える
● 他社が持つリスティング(媒介契約)物件の情報を他社エージェントがオープンドアに送りオファ
ーをリクエストすると、オープンドアではオファー(ほとんどが現金オファー)を提出する。もち
ろんコミッッションは他社とオープンドアでシェアする。
● 買い手に対して30 日の条件付き買い戻し保証
● フェニックス・ダラス地域において1000 人以上の他社エージェントとコラボしている
● 他社エージェントは当社にとってパートナーである
このように見ていくと、オープンドア社は自社だけで売買で両手取引をしなくても、他社エージェント
とのコラボだけでかなりのビジネスを伸ばせそうだ。例えば他社エージェントがどうしても売れない物
件を同社にオファーをリクエストすればキャッシュオファーが入るとすれば、他社エージェントとその
売り手にとっては救世主となる。これまで米国の不動産仲介企業は基本的に買い取るという概念がなか
った。そういった意味においてオープンドアのビジネスモデルは画期的と言える。
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